不動産コラム

2024-09-26 16:45:41
耐震と免震の違いは?工法やメリット・デメリットをまとめて解説

地震対策には、耐震、免震、制震の3つの手法があります。それぞれの手法は、建物が地震に耐える方法が異なるため、選択する際にはその特徴を理解することが重要です。耐震は建物の強度を高める方法、免震は建物と地面を切り離すことで揺れを軽減する方法、制震は揺れを吸収する装置を用いて建物へのダメージを抑える方法です。

当記事では、それぞれの手法の特徴やメリット・デメリットについて詳しく解説します。新しく家を建てたいと思っている方は、地震への備えも万全にしておくことが大切です。

 

1. 耐震と免震・制震の違いは?

地震に強い建物構造には、耐震と免震・制震の3種類があります。どれも住まいを地震の揺れから守る対策を指しますが、それぞれ構造が異なるため、3者は明確に区別されています。ここでは、それぞれがどのような構造なのかを解説します。

 

1-1. 耐震とは?

耐震とは、建物の強度を高め、地震の揺れに耐えられるように設計された構造のことです。木造住宅であれば、柱や梁、耐力壁や筋交いなどによって建物を強化する方法を指します。

地震の多い日本では、新築物件における耐震基準が建築基準法で定められています。耐震基準は大地震を機に何度か見直されており、一般的には建築時期が遅い建物ほど耐震性が高く頑丈です。

なお、建築基準法で定められている耐震基準は、あくまで技術最低限度の基準値です。建築基準法を上回る耐震設計については、住宅性能表示制度に基づく耐震等級などで判断できます。住宅性能表示制度は、耐震性をはじめとする住宅の基本性能を、第三者機関が審査するしくみです。

耐震構造は、地震対策における最もポピュラーな構造であり、建物の形態を問わず採用されています。

出典:一般財団法人 日本建築防災協会「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」

 

1-2. 免震とは?

免震とは、地面と建物の間に免震装置を設けることによって、揺れが直接建物に伝わらないようにする構造です。免震装置には、建物を支える「アイソレータ」と、揺れを吸収する「ダンパー」が用いられます。

免震構造は、地震が発生しても建物自体の揺れが少ないのが特徴です。一般的な戸建て住宅で使われるケースもありますが、基本的には大規模な建物やタワーマンション、オフィスビルといった高層建物で多く採用されています。

 

1-3. 制震とは?

制震とは、建物の構造体に組み込まれた制震装置によって、地震エネルギーを吸収する工法です。免震は地面と建物を切り離す構造なのに対し、制震では地面の揺れが直接建物に伝わります。ただし制震ダンパーなどが振動を吸収するため、建物へのダメージを軽減できます。

制震工法は、免震に比べてコストや設置条件などの制限が少なく、一般住宅にも用いられています。建物への負荷を減らして耐震性能を保つ目的で、耐震と制震を組み合わせるケースも珍しくありません。

 

2. 耐震工法のメリット・デメリットは?

地震に強い家を建てる際に、最も一般的な対策として知られているのが耐震工法です。耐震性は建築基準法で定められているため、すべての新築住宅は最低限の耐震性を備えていると言えます。ここでは、家の耐震性を高めるメリット・デメリットを紹介します。

 

2-1. 耐震のメリット

耐震工法のメリットは、以下の通りです。

  • コストが安い
  • 工期が短い
  • 設計の自由度が高い
  • 強風にも強い

耐震工法は特殊な装置や工事を必要としないため、免震・制震に比べてコストがかかりません。また、免震・制震は施工できる業者が限られますが、耐震住宅は多くのハウスメーカーや工務店が採用しています。工期も短く、最も取り入れやすい工法と言えるでしょう。

耐震工法は、設計の自由度が高いのもメリットです。免震住宅では「地下室を設置できない」「一部の狭小住宅には採用できない」といった建築制限があります。耐震の場合は、耐力壁や柱の本数などで建物強度を保てれば、地下室をつくることも可能です。

さらに、建物自体を強化する耐震工法では、台風など強風による揺れも軽減できます。

 

2-2. 耐震のデメリット

耐震工法には、以下のようなデメリットもあります。

  • 地震の揺れを感じやすい
  • 建物内部の家具が転倒しやすい
  • 繰り返しの地震に弱い

耐震工法では、地面の揺れが直接建物に伝わります。そのため、大きな地震が起きると、建物内部もその分大きく揺れてしまうのがデメリットです。高層の建物では、上の階ほど激しい揺れを感じるでしょう。家具や家電が倒壊しやすく、ケガや火災などの二次災害にも注意が必要です。

また耐震工法の場合、地震が起きると建物にダメージがかかります。繰り返しの地震によって、躯体にヒビが入ることや、部分的に歪みが出る可能性も否めません。建物の損傷や劣化が進むと耐震性は落ちるため、必要に応じて点検やメンテナンスを行いましょう。

 

3. 免震工法のメリット・デメリットは?

免震工法は、建物を直接接地しない構造で、地震のエネルギーを逃がすしくみです。高層ビルなどでは、建物の中間部分に免震装置を設置する「中間層免震」が用いられることもあります。免震工法のメリット・デメリットは以下の通りです。

 

3-1. 免震のメリット

免震のメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 地震の揺れを感じにくい
  • 家具などの転倒を防げる
  • 建物へのダメージが少ない

免震工法では、大きな地震が起きても建物内部の揺れは最小限で済みます。家具が倒れる、窓ガラスが割れる、といった被害や、家具の転倒にともなう火災リスクも少ないのがメリットです。免震工法は、官公庁や大病院など安全性が求められる施設でも採用されています。

また免震では、建物本体にかかる負担も大幅に軽減できます。ヒビや変形などが出にくいため、長期にわたって住み続けられるでしょう。

 

3-2. 免震のデメリット

免震のデメリットは、以下の通りです。

  • コストが高い
  • 設置ができないケースがある
  • 免震装置の定期的なメンテナンスが必要
  • 地震以外の災害に弱い

免震工法は地震の揺れを低減できる最先端の技術ですが、導入にはコストがかかります。数百万円の建築コストに加え工期もかかるため、一般的な住宅ではあまり採用されていないのが現状です。

免震装置を設置する場合、敷地周辺に十分なスペースがあること、地盤が強固であること、といった条件を満たさなければなりません。地下室は設置できないなど、間取りにも制限があります。免震装置の耐用年数は60年以上とされていますが、免震性能を保つには定期的な点検やメンテナンスが必要です。

なお、免震は主に横方向の揺れに効果を発揮する対策であり、縦揺れや強風による揺れ、津波による水害などに強いわけではありません。

 

4. 制震工法のメリット・デメリットは?

制震工法は、建物の揺れを制震ダンパーや重りで吸収し、地震によるダメージを抑える方法です。大きな地震が起きた際は、制震装置のみが壊れるしくみになっています。制震工法のメリット・デメリットは以下の通りです。

 

4-1. 制震のメリット

制震工法のメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 建物へのダメージを軽減できる
  • 免震に比べてコストが安い
  • 上階の揺れを軽減できる
  • 強風にも強い

制震は、耐震工法のデメリットをカバーできる工法です。耐震工法だけでは、建物にダメージが蓄積してしまいますが、制震工法と組み合わせることで、建物にかかる負荷を軽減して耐震性能を長く維持できるでしょう。また、耐震工法では上階になるほど揺れが強くなりますが、制震装置を用いれば、上階の揺れを軽減できます。

制震装置の設置にかかる費用は、数十万~百万円程度です。ハウスメーカーによっては、制震構造が標準装備されている場合もあります。免震に比べると低コストなため、戸建て住宅にも多く採用されています。制震装置は、追加や後付けすることも可能です。

 

4-2. 制震のデメリット

制震工法には、以下のようなデメリットもあります。

  • 制震工法単体では倒壊に弱い
  • 設置場所によっては効果を発揮しない

建物の揺れを軽減できる制震住宅ですが、建物に強度がないと地震対策が十分とは言えません。建物躯体や地盤が弱い場合は、倒壊してしまうリスクもあります。制震工法は、耐震対策と組み合わせて採用するのが最適です。

また、制震工法は後付けが可能な一方で、制震材の位置次第では、効果を発揮しない可能性があります。建物の材質によっても相性が異なるため、追加や後付けを検討する場合は、プロの施工業者に相談しましょう。

 

まとめ

地震対策には、耐震、免震、制震の3つの方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

耐震はコストが低く、設計の自由度が高い一方で、大きな揺れを直接感じることになります。免震は建物の揺れを大幅に軽減できますが、コストが高く設置条件が厳しいので採用できる家が限られます。制震は揺れを吸収し建物へのダメージを抑えられますが、耐震と組み合わせることでより効果を発揮します。各手法の特徴を理解し、自身の住宅に最適な地震対策を選びましょう。